百年法 (上・下巻)

投稿者: q0j0p    2013年 1月 20日

20130120 山田宗樹 「100年法」

1週間くらいかけて 表記の小説を読んだ 上下巻合わせて800ページはあろうかという超大作である。
 書店で今現在も新書の枠で一番目立つあたりに大抵平積みされてあるので 見つけるのは容易である。
 黒を基調とした表紙に掛けられた黄色い帯が先ず目につく。
 「凄いぞ。面白いぞ。」
 続いて
 「読み始めたら 途中でやめることは 絶対にできない。もう一気読みである。」
 と書かれている。
 こういった大作は大抵文学的な意義は殆ど無いのが普通なのであるが 嫌いな分野ではない 買ったのは確か去年の11月頃であったと思う。
 その頃は ソフィーオクサネンの「粛清」と格闘していた時期で その後何冊か読んだので その読書を開始したのはほんの1週間くらい前である。
 あまり書いてしまうと所謂「ネタばれ」になってしまうので細かくは書かないが一応 概要を書いてみようと思う。

 時代背景は2048年 つまり近未来小説である 舞台は日本 しかし この日本は我々の知る日本ではなく「日本共和国」であり 何故共和国かというと 米国に原子爆弾を6発投下され 敗戦をした太平洋戦争直後に米国の思惑により「共和国化」された日本というプロットである。
 1980年頃に開発されたHAVIという医療技術が定着した世界で そのHAVIとは「死なない体」を作り上げる遺伝子操作の技術であり その日本共和国の国民が「HAVI治療を受けるか否か」という選択が出来る社会に生きている。

 政府はこの「HAVI」という技術を認めつつ このまま 永遠の命を持った日本人が増加すれば 人口は減る事なく増加を続け やがては国体の存否さえ左右しかねない社会問題に発展する事を懸念している。

 そこで 起案されたのが「生存制限法」であり 一般には「100年法」と呼ばれているものである。
 「100年法」とは 永遠に生きる事は否定され 100歳を迎えた時点で 「紫山」というターミナルセンターで政府による安楽死を受けて死ななくてはいけないという法である。
 主人公である仁科ケンの母親も 物語のなかで「紫山ターミナルセンター」に出向いて死を遂げるのであるが 仁科ケンはそもそもHAVIを受けていないので 永遠の命は持っていない。

 国民の大半はこの「100年法」に消極的であり その是非を問う国民投票で一旦「100年法」は凍結されるのであるが 時代がすすみ 「新100年法」が国民投票で可決され 「長生きしても100歳までしか生きられない」という社会が到来する。
 国民にとっては生命は永遠にあるというのが常識であり 政府による安楽死の合法化とその実施には反対者も多く その「拒否者」は日本各地の「拒否者村」を秘密裏に作り「100年法」から逃れようとする者が続出する社会となった。
 とまあ 概要を書けばこんな感じで 登場人物は記憶が難しいほど登場し 話の進みかたもオルタナティブで直線的でもなく しばし時代背景が相前後しつつ 怒涛のように下巻の最終頁まで物語は進む。

 まあ 流行っているのであろうかこの「100年法」という小説。。。正直に言えば 打倒「1?84」という気がしてくる 何巻かに分けてある と云う点とか 同時進行的に複数の物語が進んでいくとか 教祖のような人物が登場するあたり そして「オウム事件」を連想させるあたり「1?84」を真似ているとまで行かなくとも 影響を受けている。
 そしてその「打倒」の心が負けていて 何に対して負け得ているのか判らないが 物語全体を判りにくいものにしている。
 結局 「100年しか生きられない」というテーマを軸にしていて「あなたならどうする?」という投げかけを作者は意図しているのではないかと想われる そのアイデアは独自の物であって リアリティーさえ得られれば 物凄いボリュームのある大作となったであろう。
 しかし 多すぎる登場人物達にそれこそ生命を与えるほどの「設定」がなく たとえば「20世紀少年」とか「1Q84」などに代表される空想小説の登場人物らしく描かれているが必然性がない 結果として大きな時代の流れを描き切っていないと思える。

 そもそも「永遠の命」というものは現実には無いのであるが そこにリアリティーを加えて説明しようとしている事に失敗していると思う。
 なのでもしやるとすれば このIAVIという架空の技術には説明を加えず 恐ろしさを漂わせた方が読む者に逆に説得力を与えたかもしれない。

 なので 後読感もあまりない セリフが多いので それを圧縮すれば上下2巻にする事もなかったろうし この長大さは無駄と思える。
 この上を行く長大で複雑な小節はトマス・ピチョンの「逆光」かも知れないが 余計な説明など無しに暴力的に長大な小節を読ませる迫力もこの「逆光」に負けている。

 見えてくるのは やはり出版業界の事情で「売れる書籍」を出版しようという意図が読者に見えすぎるという事であろうか?作者曰く 「これ以上の物は書けない」という事であるが 作者たるものそういう読者の夢を破壊するようなコメントは出して欲しくないし それが小説の帯に載るというのはちょっと当惑してしまう。

 ただ 文章としては平易なもので記述されていて 長大な小説を読んでみたい という読者には良いかもしれない 実をいうと最近少し出来るようになった「速読術」を試すにはもってこいの書籍である。
 心に何も残らないのは 元々の作品がそうなのか 「にわか速読術」の成せる技なのか どっちだか判らないまま 踏み台のようにして 次の書籍を手にするには 良い本なのではないでしょうか?

 感じ一文字で表すのなら「粗」かな?

この本の

おすすめなところ
・平易な文章で 超大作を読んだ!という満足感が得られる
・価格が安い
ジャンル
近未来

 
 
文字を入力してください
文字を入力してください